iBS外語学院40周年記念実行委員会

「妻から見た中国」

切っても切れない隣国、中華人民共和国。その中国と日本をつないでいる人は、いま何を考えているのか。波乱含みの両国関係を「妻」の視点から見てもらいました。

Words: 竹下 ”Blossom“ 夕貴絵

その依頼は噂通り、突然にやってきた。

まさか私のところに、しかもこんなテーマ(笑)で依頼がくるとは思わなかった。依頼にはもちろん快諾した。というのも、私たち実行委員会のメンバーの中でも紛れもなく来る9月の式典のために奮闘している彼等に少しでも協力したいと思ったのと、私自身KONAを毎回楽しみにしている読者の一人だからだ。

現在、オンラインでの住所データ集めを始め定期的にこのKONAを発行しているテリー@23期、アルバート@31期、ハント@40期にまずはこの場を借りてお礼を伝えたい。

本題の前に、まずはiBSに出会ってからこれまでのことを簡単にお伝えしたい。 2007年28歳の時に、自分の人生にリセットをかけるために一念発起。33期生としてiBSに入学。卒業後は、iBSのスタッフとして研修から始まり約6年渉外という職務にのめりこんだ。その間、院長や先生方に学ばせてもらったことは生涯大事にしたい。結婚しなくてもこの仕事があれば生きていけるとさえ本気で思っていた私だったが、2014年のいわゆるスピード婚を機に老板(ラオバン=社長)である主人【以下、ラオバン】が株式会社SGWを設立し、私も手伝うことになる。ちなみに弊社の名付け親は院長。SGWは、Southern Gate Way=南の玄関口という意味。

人生とは不思議なもので、これを機に、これまでの私には全く縁のなかった中国に触れることになる。こういうテーマなのでラオバンの話も少ししておこう。ラオバンは、青春時代に中国に留学し、現地外資系企業でキャリアを積んだ後独立しているので中国に関してはかなり精通している。そんな彼が代表を務める弊社の主な事業は、医療渡航支援をメインとしたインバウンド事業、そして日本の医療進出を支援するアウトバウンド事業、またIT事業を手掛けており、現在はAIシステム開発の新規事業に着手している。

私の役目は主に管理部門(経理、総務等)と日本側の取引先との交渉に始まり、来日されるお客様のアテンドから雑務までいわば何でもそこそここなさなければならない何でも屋である (笑) 。ラオバンは月に少なくとも一度は、中国出張があり、私も時々同行させてもらっている。この約7年間、北京、上海、広州、深圳、大連を訪れる機会があった。実際に現地で、その中で私なりに感じた「中国」のことをお伝えしたい。

1.あなたは中国が好きですか?

中国と言ってもどの街にも特徴があって一言では言えず、その土地の気候、風土、食の味付け、方言、までさまざまである。それぞれの街が違う表情を持ち、何度訪れても新しい発見がある。中国に限らず言えることだと思うが、私たちが日本のテレビや新聞、マスメディアを通して見る情報はある一部を切り取ったものでしかないので、真実は見えにくい。もしかしたら時に意図的にコントロールしているかのようでもある。かくいう私も、実際に中国を訪れる前には中国や中国人に対してあまりいい印象を持っていなかった。正直嫌いな気持ちが強かった。入ってくる情報にネガティブなものしか無かったからだろう。

現在の中国の総人口は約14憶(厳密にはもっと多いと言われている)、日本の総人口のざっと10倍以上である。その中に、数えきれないほどの小民族まであるので、日本人からみたら考えられない価値観を持っている人がいてもおかしくない。また、中国には富裕層が1憶人以上いると言われている。これはおよそ日本の総人口に当たると言われている。私が出会った中国人の中には決して大声を出さず、礼儀正しく、教養があり英語等の他の言語も流暢に話せる人がたくさんいる。

もちろん富裕層に限らず、称賛されるべき中国人もたくさん存在している。そういう人達にフォーカスした情報は日本のマスメディアを通してはみることはほとんど無い。マスコミに登場してくる中国や中国人がすべてではないので、先入観で物事を決めてしまうなんてもったいない。

ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれないけれど人生損してしまうのではないかと思ってしまう。中国はとにかく面白い国なのだ。一度は訪れて自分の目で確かめて欲しい。理想かもしれないが、中国では日本の、日本では中国のもっとポジティブな情報を発信して欲しい。

2.「中国人に裏切られた」は、本当に中国人だけが悪いの?

私たちのように中国とビジネスをすると「中国人と仕事をして不安は無いの?」とか時には「中国人に裏切られたことがある」、「中国人と仕事をしてもうまくいかない」という方がいる。この話を聞くと、あたかも中国人が悪いという一方的な印象があるが、本当にそうだろうか。

一方、ラオバンが中国人とビジネスをする上で、これまでこのようなセリフは聞いたことがない。私なりに何が違うのか、分析してみるといくつかのポイントが見えてきた。

① 仕事のスピード感と計画性の違い

中国人と仕事をするととにかくスピード感があり、とにかくやってみて失敗したら修正していくという形が多い。一方、日本側というと失敗のリスクを抑えるため、慎重に計画通り進めていく傾向があると見られるので、そこにズレが生じてきて仕事のスピード感が合わず不協和音が発生する。

② 価値観・文化の違い

価値観や文化の違いを正しく理解しているだろうか、完全に理解することは難しいけど理解しようと努めているだろうか。そして、リスペクトを忘れていないだろうか。

③ 言語の違い

言葉の違いがあるのは当然ながら、コミュニケーションだけで満足していないだろうか。肚の中の声をキャッチするには、対話力、相手との信頼関係がカギになる。目先ではなく、長く続く信頼関係を築く努力をしているだろうか。

④ 約束事の違い

契約は書面でお互いが納得いくものを結んでいるか。責任は、100対0の話ではなく、もちろん中国側にもどこかに落ち度があるだろう。そして、日本側にも落ち度があるとしたら。

①~④を理解していると違う形になったかもしれないという気づきである。信頼関係を築きながら、でも決して油断はできない。これは相手を疑うという意味ではなく、ビジネスにおいてより良い関係をより長く保つために必要だと私は思う。

3.中国のパワーの秘密:華僑

GDP値が落ちたとはいえ、どうしてこうも中国人はパワーがあるのか。中国を訪れると感じるのは、やはりその地にある人々のエネルギーである。日本とは比べ物にならない数の人々が、成功を夢見て、常にエネルギッシュに行動している。

私が出会った、20代、30代の若手の経営者たちは、いつも何か学ぼうという姿勢を忘れない。貪欲で、挑戦して、失敗する。普通なら諦めてしまおうかと思うことも、失敗したのを忘れたかのように平気な顔をして、新しい挑戦を始めている。そして、その強さの秘密に、家族、親戚そして、華僑に繋がる絆があると思う。世界に進出して、世界のあらゆるところに存在する華僑。その強さは大きく、時にして恐ろしいものを感じるほどである。

4.これからの中国

このコラムの依頼を受けた時は、新型コロナウイルスが発生し、中国は甚大な影響を受けていた。旧正月から中国現地の取引先から続々と入ってきた情報は、想像以上に深刻な状況だということ、旧正月がいつ明けるかわからない、外出禁止令も出ており、外に出られない。

次々送られてくる画像は、いつもお祭りのような人で溢れかえる街がまるでゴーストタウンのように静まり返っていた。経営を追い込まれる企業も出てきており、経済的な影響も大きい。その頃の日本政府の対応やメディアを通しての情報との温度差を感じずにいられなかった。

今回の新型コロナウイルスの影響で私自身が驚いたことの一つに、中国政府関係が非を認めたということだ。中国共産党は、常日頃から政府にとって不都合な情報をネット等で流す者については非常に厳しい措置をとっている。だから多くの中国人は政府に不満があっても、ネットを介してそれを主張することは無い。しかし、今回の新型コロナウイルスについては、最初にウイルスの存在に気付いた若いドクターの訴えや、甚大な被害により、一般民衆の怒りとストレスが爆発した結果だったし、認めざるを得ない状況だったのだろう。

時を経て本日2/29、政府は日本中の小中校を休校するよう要請し列島を震撼させている。その反面、中国は感染者の抑制に成功しつつあり、ピークを越えているように見える。 弊社は現在中国出張は全てキャンセルし、会議は全てオンラインで行っている。来日予定のお客様の予定も全て延期している状態だ。中国から始まり今は日本や他の国での影響が心配だが、この国の為、世界の為にも1日も早い収束を願っている。

私は、一生かかっても中国を理解できるなんて、これっぽっちも思っていない。でも、少しだけ中国と関わらせていただいて、気づいたことがたくさんあった。自分の勘違いも分かった。天然で愛くるしい中国人も、したたかな中国人も同じ人間。理解はできなくても歩みあえることも少しわかった。7年でたくさんの仲間もできた。ラオバンや社員のみんなには感謝しかない。

日本と中国の為なんて私には大きなことは言えないけど、運命を受け入れていろんな形で日本を発信していきたい。まずは目の前の中国人を喜ばせることから。

ラオバンではなく、妻からみえることで。

Yukie ”Blossom“ TAKESHITA:33期卒

1978年生まれ iBSを卒業後、6年間同学院スタッフとして渉外に従事。 現在は株式会社SGWの専務取締役。詳細は本文を見て頂くとして、iBS外語学院を陰から支える一人。

KONA
RECOMMENDS