iBS外語学院40周年記念実行委員会

「南仏子育て便り」

編集長からいきなりメールで卒業生に依頼が届く「RELAY COLUMN」。今回は30期卒業生のヴァンデヴォールド真由美へ執筆のお願い。フランスで子育てをしてみて、思ったことを率直に書いていただきました。

Words: ヴァンデヴォールド “Orlil” 真由美

南フランスはルノアールの愛した街、カーニュ・シュル・メールから30期生オーリルです。早いことに、フランス生活も5年目になります。フランス移住前はシンガポールにある日系企業で社長と会長の秘書を、その前は香港で5年間、キャセイパシフィック航空でCAとして勤めていました。香港で夫に出会い、現在は子供二人に恵まれ夫の故郷で主婦をしています。生まれてこのかた、一度も車を運転したことがなかったのですが、去年9月に念願の運転免許を取得して自由に動けるようになり、5年目にしてやっと、ここでの本当の生活が始まったように感じています!

今回のリレーコラムのお題は南仏での子育てについて、ということで母親歴たった4年の私ですが、フランスの制度、環境 、ママ友、家族、教育のことなどについて私の視点からお話しさせていただきます。

—制度と環境

フランスの家庭は基本共働きです。私はここに移住して数ヶ月後に長男を出産して以来ずっと主婦なのですが、仕事をしているか聞かれて、主婦です、と返すと変な目で見られることが多々あります。フェミニストも多い国ですし、女性も働く権利があるのに、なぜ貴方は働かないの?!という空気を同じ女性から感じることは少なくはありません。今の状況に満足しているし、まだフランスで何をしたいかが私の中で固まっていないので働いていないわけですが、女性が結婚しても出産しても仕事を続けるのがごく当たり前のことだからこんな雰囲気があるのだと思います。

フランスでは、一人目の産休は16週間(産前6週間・産後10週間)、毎月の給料とほぼ同額の手当てがもらえます。育休中は最長3年間取れることになっていますが、手当ては最初の6ヶ月間のみ、毎月390ユーロほどもらえます。あとは勤務先によっては消化していない有給を産後のタイミングで消化することもできるようです。日本の制度と比べると、最初の一年はフランスの制度よりも多い金額をもらって育児ができるので日本の制度は意外にも悪くないと思います。

フランスでは産後、仕事復帰するママたちは大抵は①ベビーシッター②Assistante Maternelle という個人保母さん(よくヌヌと呼ばれます)③保育園から預け先を選びます。ヌヌは研修を受けて資格をとった保母さんで、自宅で月齢3ヶ月以上の子供を預かることができます。預かることができる子どもの人数は自宅の大きさで決まっていて、最大4人まで。預け先をしっかり用意して、産後の女性の職場復帰を促しているようです。一方、日本は待機児童問題がありますね。あと、“イクメン”というような言葉はフランス語にはありません。あるとしたら、“パパ”です。自分の子供の育児に関わるのは当たり前、という感覚です。育児に“参加”と言っている時点でやはり日本では未だに意識が違うのかな、と思います。

フランスの法律で定められている労働時間は1週間35時間。幼稚園・小学校が終わるのが16時半なので、子供のお迎えに合わせて帰宅する人も少なくありません。残業する人ももちろんいるそうですが、大抵のところは17時に終わるそうです。

—ママ友

と、呼べる人は未だに3人くらいしかいない私です(笑)公園デビューという言葉もこっちでは特にないので、ママ達がグループになって固まっているという光景も正直見たことがありません。共働きがほとんどだから、平日の公園はヌヌ達(個人の保母さん)、産・育休中のママパパ、孫を預かっているおじいちゃん、おばあちゃん、たまに私のような主婦ママという具合です。子供同士が仲良く一緒に遊んでいたら、ちょっと話しかけようかな、というくらいで、会話をしなきゃ!というプレッシャーはないので、人見知りしてしまう私は気が楽です。気が合うママがいたら、プレーデートと称して、待ち合わせて公園に一緒に行ったり、お互いの家に遊びに行ったりすることもあります。個人的にはママ友はママだから友達というよりも、お互い子供がいなくても友達になりたい、と思える人としか付き合っていません。でも私は夫の故郷に住んでいて、すでに夫の友達ネットワークの中にいるから焦ってママ友を作ろうと思わなかったのかもしれません。自国でない、知らない土地で知らない人だらけだったら、また違ったのかもと最近思います。

—家族の距離感

義理の家族との関係はもちろん家庭それぞれですが、うちは極めて良好です。フランス語では義理の母のことをbelle mere(直訳すると美しいママ。パパも、美しいパパというので略して美ママ・美パパと書かせてください)。

あれは忘れもしない、4年前の9月。長男がまだ10ヶ月の時に私の不注意で70センチほどの高さから落ちてしまいました。スローモーションのように落ちて行ったのを思い出すと今でもゾッとして後悔の念に襲われます。まずギャン泣きしているのを落ち着かせるために抱っこしてあやして、母乳も欲しがったのであげたらすぐに泣き止みました。でもハイハイするのを見ているといつもとちょっと何かが違う。すぐに小児科のいる緊急病棟に駆け込みました。病院に向かう途中、ちょうど美パパが電話をかけてきて、大丈夫だとは思うけど、と前置きをして、心配だから念のため今から病院に連れて行くと夫が説明していました。緊急病棟、特に小児科のいるところは週末すごく混んでいるので待っている時間が本当に長く感じました。その間、ほぼずっと私は心配で泣きっぱなし。夫は私の不注意に怒っていたので、無言で息子を見ていました。診察してもらうと、落ちて着地したときに少し腕を痛めたのかもとのことで治療も薬も何もなく家に帰れることになりました。ホッとしてまた涙ぐみながら診察室を出ると、待合室に美ママと美パパがいました。なんて言われるんだろう、なんてダメな嫁なんだ、とさらに落ち込みました。ところが、スッと美ママが私の方に近づいてきて、抱きしめられました。“大丈夫よ。あなたのせいじゃないわ。あなたがきっと自分を責めてると思っていてもたってもいられずに来ちゃったのよ”と、美ママ。この言葉を聞いて更に泣いたのは言うまでもありません。美ママも夫が2歳半の時に顎を縫う怪我をさせてしまったことがあるそうで、子育てしているとこんなことはあるのだからあまり自分を責めないで、と言われました。この時のことはきっと一生忘れません。

美パパも美ママも、それぞれ市役所と県庁で務める公務員でした。美パパは約6年の闘病生活の末、2年前に亡くなりました。癌発見当初、余命半年と言われていたのですが、その後私たちの結婚式にも出て孫二人にも会って攻めの癌治療を選び続けた本人の気持ちの持ち方、心の強さのようなものを感じました。美ママはすでに退職しているのですが、退職直後に自分の部屋着ブランドを立ち上げるという、とってもパワフルな女性です。美パパが亡くなってから一時期、土地を美ママと一緒に買って隣に住むのはどうかと夫が提案していた時。“あなたたちのことはもちろん大好きだけれど、そんなに近くには住みたくない。私には私の生活リズムや暮らし方があって、あなたたちのそれとは違うから。”とキッパリ却下されました。フランス人姑の感覚はこんなものなのか!とびっくりした出来事です。もちろん全てのお姑さんに当てはまるわけではないようですが。本人によると、“愛していても適度な距離は良い関係でいるためにお互い絶対に必要だから、あとあなただけに言うと、四六時中息子といたら首締めちゃうことになりそうだから”、ということです。納得(笑)

フランスは挨拶にビズ(頰にキス)をする国なので、子供とのスキンシップも日本よりも多いかもしれません。夫も私も、いつでも息子たちにほっぺチューしています。中には口にチューしちゃう親もいます。虫歯菌がうつしたくないし息子のファーストキスを奪うのは流石に気がひけるので、うちはしませんが。カランといって、ハグもよくします。一体何歳までさせてくれるんだろう……。

—教育

フランスの義務教育は3歳から16歳です。日本の幼稚園にあたる保育学校が3年、小学校が5年間、中学校が4年間、高校が3年間です。義務教育は16歳までですが、その後も18歳までは何らかの学習、職業訓練、または仕事をしていることが義務付けられています。ニートが生まれないように、でしょうか。ちなみに去年から義務教育は6歳からだったのが3歳からに引き下げられました。移民・外国人も多い国なので、小学校が始まる際の生徒のレベルに差があるため、特にフランス語力を強化するのが狙いのようです。フランスでは公立は大学院まで授業料は基本的に無料です。日本と特に違うと思うのは、小学校から留年と飛び級があることと、機会の平等を大切にしている国なので、高校の最後の年に大学入学試験(バカロレア)があっても、大学側で生徒を選ぶ基準は成績だけではなく、入学希望者の中からランダムに選ばれる枠もちゃんと確保されているそうです。

年中組の長男も公立の保育学校に通っています。日本の幼稚園に当たりますが、一番日本と違うと思うのは、持ち物が少ないこと!お漏らしなどもしもの時の着替えは学期はじめに名前を書いたビニール袋に入れて持たせて、それは学校で保管してくれます。教室内も基本土足なので、上履きも必要ありません。学校用のリュックに入れるのは連絡帳と本人が持って行きたければ、ドゥドゥと呼ばれるお気に入りのぬいぐるみのみ。これで準備完了です。しかも連絡帳は必要最低限の連絡しかしないので毎日やりとりすることはありません。もし何か特別聞きたいことがあれば、送り迎えの際に担任の先生と話をします。すごく合理的です。

フランス人の夫によると、日本人と比べるとフランス人は意外にも伝統を大切にしない人、礼儀正しいことに重きを置かない人が多いそうです。もっとそういうことを大切にする人が育つ教育になれば良いと、言っていました。反対に、彼がフランス式教育の方が良いと思う点は、マニュアルや教科書通りでなく、自由な発想を持った人間を育てる点だそうです。

私が子供たちに願うのは、小さい今から、多様な価値観や色々なバックグラウンドの人と接して広い視野を身につけて欲しいということ、そして、とにかくのびのびと育ちながら、でも自分が何をしている時が幸せなのかを、敏感に感じ取って自分に正直に生きる手伝いができたら最高です。

今フランスではコロナウイルスが猛威を奮っているため、先日3月17日正午、ついに外出禁止令がでました。日用品・食品の買物、病院に行くこと、テレワークが出来ない仕事以外では不必要な外出は控えるようにとのこと。

学校もすでに16日から保育園〜大学まで無期限で休校です。日本のように体調が悪いとマスクをするという習慣もなく、さらに挨拶で握手やビズの習慣もあるためか先週から感染者が爆発的に増えました。

外出禁止になって今日で三日目ですが、自宅で2歳児と4歳児と一緒にずっと過ごすのは、今のところ、思っていたよりも大変ではないです。庭がないのはちょっと日に日にキツくなりそうですが、ゆっくりと子供達とも自分とも向き合える時間が出来たし、ずっと後回しにしていた家のことをする良い機会にもなりそうです。コロナウイルスで世界的に大変な状況ではあるのですが、世界中が一つの大きな問題に直面することって、戦後初めてではないでしょうか。みんな同じ問題と不便さを共有することで、収束する頃にはちょっと世界が変わっていそうな気がします。パニックで買い占めが起こって必要な物が手に入らない、家にあるものでも大事に無駄にしないように使うようにしようとか、今までどれだけ何も考えずに消費してきたのだろう、と小さなことで気づくことが増えました。もっと環境のことを考えたり、この消費社会を疑問に思ったり、意識改革につながるのではないかと思っています。あと自宅からでも仕事できること、会議もオンラインでやっても実際問題ないことに気づいて、働き方改革にもつながりそうですよね。

それでも一日でも早く収束するに越したことはないので、自分で今、ここのコミュニティを守るためにできることをやっていこうと思います。はやく皆が穏やかな生活に戻れますように。

2020年3月18日 

カーニュ・シュル・メールにて

Mayumi “Orlil” VANDEVOORDE:30期卒

1985年生まれ。錦江湾高校卒業後、iBS外語学院入学。卒業後、iBS夜間部で受付をしながら、初代かごしま親善大使として1年間活動。カリフォルニアはCypress Collegeに約一年留学した後、2008年に香港のキャセイパシフィック航空に就職。現在、南仏はニース近くの街、カーニュ・シュル・メールで2児の母として暮らす。次のステップをただ今絶賛模索中。

Instagram @mayumi.frenchriviera

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