iBS外語学院40周年記念実行委員会

「亜細亜 “JAPANESE WAGYU” 繁盛記」

日本産の和牛が、何かと話題になる昨今。 霜降り和牛を片手に、アジアを飛び回るオトコの亜細亜“JAPANESE WAGYU”繁盛記。なぜ、このオトコは和牛に興味を示すのか。そして、なぜアジアなのか。ベトナムからのエッセイ。

Words: 上村 “Hank” 幸生

日本産和牛肥育農家のもとで生まれ育ち、幼少期両親の農場が一番の遊び場、小学高学年から中学卒業までは、時間があれば嫌々農場に手伝いに行くのが日課。農場は独特の臭いや肉体労働も多く、小さい私にとっては魅力的とは言い難い環境。当時から畜産業界では将来働きたくないという思いが強かった。その反動もあり、華麗な職業に魅力されていた子供の頃の私は、小学校から始めていた野球でプロになれば両親の農業を継がなくて良いのではと子供ながらに感じていた。

残念ながらプロ野球選手の夢は叶わなかったが、没頭した野球で進学した高校の担任の先生との出会いがiBS外語学院へと導いてくれ、幼少期の気持ちとは裏腹に、2015年1月から鹿児島に本社を置く株式会社カミチク(畜産業界)で働いている。きっかけは、アメリカ留学前、両親が育てた牛肉を東京で食べた体験だ。鹿児島の山奥で両親が育てた牛肉を、大都会東京の方が美味しいと食べている様子はまさに感動だった。留学中に日本産和牛をもっと海外に発信することが農家の息子に生まれ育ち、海外で勉強した使命だと実感した。

2017年1月からは同社の子会社をベトナムのハノイに設立し、私が駐在員として拠点を置き日本産和牛をアジアに販売している。

そんな私の牛肉営業をしてみての、アジア各国のお国柄についてお話ししたい。

まず私が拠点を置いているベトナムだが、この国がまた面白い。主要都市は日本人がイメージするベトナムとは程遠いものだ。ホーチミンの1人当たりGDPは、6,500ドル程だが平気で1~2万円のお店が幾つもある。ドイモイ政策により、ベトナム人富豪もかなり数がおり更に増える一方である。因みに経済成長率は約7%と非常に高い数字である。フランスの植民地であったことからフレンチ文化がいい意味で残っており、フレンチレストランもお手頃価格から高級業態まで揃っている。外食産業の観点では、鹿児島よりも断然レベルが高い……。

次に面白い国として紹介したいのがインドネシアである。人口約2億6千万人の巨大国。

世界で一番イスラム教徒が多い国である。この国へ牛肉を輸出するには、ハラル牛肉でなければいけない。簡単に説明すると、各国でトレーニングを受けたイスラム教の屠畜者が、屠畜前に規定の言葉を唱え、血管、食道、気管を一気に切断し屠畜された牛肉。インドネシアとマレーシアにおいては、屠畜場が100%ハラル対応の屠畜場でなければ輸出認証が取れず、中東はその点は少し曖昧だ。

日本から輸出する牛肉も勿論彼らが食べることが可能なハラル牛肉に限られる……が実際にインドネシアに行くと面白い。日本産和牛を食べることが出来る、経済的豊かな方は大多数が中華系インドネシア人であるからだ。つまり、ハラル処理された牛肉を必要としていない人達である。そのため、日本産和牛の正式輸出入解禁後も近隣諸国からのハンドキャリー輸入が未だに続いている状況。恐らくこの悪しきハンドキャリールートは、一生無くならないだろう。なぜならこの国は、いい意味でも悪い意味でも、袖の下で何とかなる国だから……。

インドネシア紹介ついでにマレーシアも紹介すると、この国も同様にムスリム国のためマレーシアのハラル法に基づいた屠畜・加工処理された物しか輸出が出来ない。インドネシア同様ハンドキャリーは相変わらず行われているが、近年ではマレーシア政府が取締りを強化し、先月日本産和牛50㎏を密輸した日本人2名が逮捕及び罰金の処罰を受けている。マレーシアでも、日本産和牛を消費しているのは現地マレー人よりも中華系マレーシア人が圧倒的に多い。面白いのが、インドネシアとマレーシアの中華系を比較すると、中華系インドネシア人は、より現地に入り込みどちらかというとインドネシア人として現地で生きている一方で、中華系マレーシア人は中国アイデンティティーを全面的に出している人ばかりで、英語もマレー系が話す英語ではなく、シンガポール英語だ。お酒の好きな方は、マレーシアをお勧めする。インドネシアはバーか高級レストランにしかお酒がないため、非常に高くつく。禁酒をする方は、インドネシア生活はかえって良いかもしれない。

最後に、日本の畜産業界について是非とも触れておきたい。日本の畜産業界は危機を迎えている。和牛生産者の平均年齢はなんと今70歳である。高齢化に伴い繁殖農家が減り、5前年まで45万円~50万円であった和牛子牛価格がなんと今は、倍の値段する。これからも生産農家数は減る見込みで、高い日本産和牛が更に高くなってしまう。しかしながらマーケットは着いてこれないという悪循環が続くのが見えている。加えて海外では大多数の一般消費者は、Wagyu=オーストラリアの牛肉という認識が強い。では、日本産和牛(Japanese Wagyu)はどのように認識されているかというと……KOBE BEEFである。つまり海外ではKOBE BEEFではない和牛は、日本産和牛(Japanese Wagyu)ではないといった間違った認識が強く強く根付いている。

日本産和牛の肥育農家の息子に生まれ育ち、海外で勉強した経験を活かし、海外に本物のJapanese Wagyuを販売することで少しでもこの畜産業界にいい風を流せれば幸いである。

Kosei “Hank” Kamimura:36期卒

1991年生まれ。iBSを卒業後、アメリカへ留学。詳細は本文に詳しいが日本の和牛を片手にアジアを動く牛肉商社マン。

カミチクのサイトはこちらへ:http://www.kamichiku.co.jp/

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